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[B'z][Magazine] GB インタビュー
GB92年3月
MY AIM IS TRUE −−夢と展望のプロセス−−
今回のテーマは、夢や憧れ、未来を思う気持ちについて。少年のころに
抱いていたシンプルな形のものから、もっと複雑で、形容するに難しい
ものまで、いろいろだ。そして、それらについての2人の違いがおもし
ろいなと思った。はじめはまったく違う形で音楽と結びついていた2人
が、今B'zとしていっしょにやっているということ。先を見る、その見方
についても個性って現れるものなのだ。
このインタビューは羽田空港のティールームで行なわれた。ツアーの移
動日である。そして数時間後には、彼らは12月の凍るような北海道へ
と向かうことになっている。
*
−−じゃあ、まず子供のころの夢から。
松本「僕は最初、野球選手。小学校いっぱい・・中学校ぐらいまでかな
あ」
−−憧れの野球選手のイメージって、どんな感じだったんですか?
松本「そのころはね、どっちかっていうと王、長嶋より柴田とか高田の
ほうが好きだったね、オレは」
稲葉「渋いっすよね(笑)」
松本「なんか・・ホームラン・バッターでいるよりは、いいところでヒ
ットを打つ人たちだよね」
−−ここぞっていうところで活躍する。
松本「そうそう。で、小学校のころはもう野球ばっかりやってた」
稲葉「僕はそういうの、あまりなかったなぁ。小学校6年生の卒業の時
に”何になりたいか書け”って言われて、しようがないから”カ
ーレーサー”って書いたけど、そんなになりたくなかった。(笑)
とりあえず書いてみましたって感じで。そんなになりたいものと
かなかったんだよね。将来のことなんかべつに考えてなかった。」
−−毎日の遊びに精いっぱいで。
稲葉「でしょうねぇ。それより来週の「少年ジャンプ」のこととか、そ
んなことばっかり考えてたから(笑)」
−−音楽をやりたいって思うまでは、ずっとそんな感じで?
稲葉「わりとそういう傾向でしたね。先生になろうと思って大学には行
ったけど、正直言って”絶対コレ!”ってとこまではいってなか
った。ただ英語が好きで、先生になるってことは毎日その好きな
ことに携わりながら生活していけるんじゃないかって気持ちが多
分にあったんですけど。でも実習をやって、その居心地の悪さに
”もしかしたら、あまりなりたくないんじゃないか”って自分で
も気づいて(笑)」
−−で、自然に音楽のほうに?
稲葉「なんだかんだ言いながら続けてやってましたからね、結局」
−−稲葉さんの場合、大きな目標に向けて突進するタイプではなかった?
稲葉「そうですねぇ、はっきりしないままずっとダラダラいって・・・
結局、みんなが就職するころ完全に出遅れて。気持ちがまだそこ
にいってなかったですからね。で、もう何の行動も起こさなかっ
た。試験受けない、就職活動しない、ってね」
−−余裕ですよねぇ、そういう人生も。
稲葉「余裕・・というか、まあ一人暮らしだったし、あまり周りの人に
いろんなコト言われなかったから(笑)」
松本「そういう姿勢は今もあるかもね。(笑)なんか、わりといつもそ
ういう生き方というか、そういう姿勢だよね。べつに後ろ向きと
いうんじゃなくて・・前向きなんだけど、それをあまり外にアピ
ールしないというか」
稲葉「わかってもらえないの(笑)」
松本「まぁオレはわかるけどね、何年もずっといっしょにやってるから」
稲葉「大学のころは、ほんっとにやる気なかったですからね。(笑)
でも内心は焦ってた。だって、いつもダラダラと同じペースで遊
んでた友達が、急に就職して、”遊ぼうよ”って言ったときにい
ないわけですからねぇ」
松本「稲葉はそのとき本当にいい方法が見つかってなかったんだろうね。
だから”動かない”というより”動けない”んじゃないか?そう
いうのが決まってないと。意外とけっこう合理的なのかもしれな
いね、稲葉って」
稲葉「面倒くさがりだし(笑)」
−−松本さんは、野球選手のあとは?
松本「オレはもう3つしかなかった。野球選手、獣医、それから音楽。
獣医は、とにかく犬が好きだったからね。中学ぐらいの時に犬の
こととかいっぱい調べたし、種類とか。で、それが年とともに音
楽になって・・そのころはもう就職とかに直面してた時期にやっ
てたからね。だからその道を選んだっていうかね。まぁ不可抗力
もけっこうあったけどね、周りからの」
−−周りに引っぱってくれる人がいた。
松本「うん。でもみんなそうなんじゃないかな。やっぱり誰かがそうい
う力を与えてくれて決心がつくとか、見いだせるものとかってあ
るじゃない?あ、今思い出したけど、その前に映画評論家ってい
うのもあったな。(笑)オレ、すごい映画小僧だったじゃない?
それで、見た映画の批評を自分なりにノートに書いたりしてたわ
け」
稲葉「ほんとォ?」
松本「年間100本くらい見てたからね、多いときは。もう、こづかい
全部映画に使ってた。ちょうどそんな友達もいてね、中学のころ。
で、映画のチラシを集めたり。その裏にいろいろと解説とか書い
あるじゃない?そういうのを自分でも書きとめとこうと思って」
稲葉「『ロードショー』とか買って?」
松本「買ってた。『ロードショー』と『スクリーン』と『キネマ旬報』
と」
−−松本さんの場合、思い込むとけっこうのめり込むというか。
松本「のめり込むよね、思い込み激しいから。そのころも子供なりにね。
でも、本当に将来のことに直面したのは18〜19歳のころだね。音
楽の世界でやっていけるのか、プロになれるのかって。でも、ハ
タチのとき初めて仕事としてギターを弾いたとき”ああ、プロに
なれたんだな”と思った。ただ、そのときはお金がもらえるって
いうのはあまり頭の中になくて、仕事でギターを弾くという、そ
の響きがプロフェッショナルな感じで好きだった(笑)」
−−こうして聞いてると、夢とか憧れとの関係って、稲葉さんと松本さ
んでかなり違いますよね。
稲葉「うん。でも、松本さんのがいちばんオーソドックスな形ですよね」
−−憧れに向かって進んでいくという。
稲葉「そうそう。だから、僕も大学のころはそういう打ち込めるものが
ない歯がゆさがありましたね。たとえばバイクにかけてるヤツと
かいてね」
松本「あー、いるよな」
稲葉「クラスの中にね。週末に走ったこととかを月曜日に話してくるん
だけど、それがうらやましくてね。聞いてて”もういいよ”って
感じで」
−−バイクそのものというより、そんなに夢中になれるものを持ってる
ってことがうらやましかったんですね。
稲葉「そう。僕はそのころバンドとかやってたけど、そう思ったってこ
とは、あんまりのめり込んでなかったんでしょうね。でも今、最
終的に残ったものだし、音楽がここまで自分にとって大事で、の
めり込めるものだっていうことが、そのときは気づかなかったの
かな。ずっとやってる”趣味”のようなものというか。もしあの
ころ松本さんというか事務所から電話がなかったら、今ごろはバ
イトしてたジーパン屋でジーパン売りながら、趣味でバンドやっ
てたかもしれない(笑)」
−−そう考えると、人生、タイミングっていうのも大事ですね。
松本「タイミングは大事だよね、ほんとに。特に、バンドやろうなんて
いうのは学生時代のようなわけにはいかないし。だからオレ、
B'z作るときに稲葉がいわゆるシロウトでよかったと思うよ。だっ
て、プロとして仕事してるヤツといっしょにやると、やっぱり仕
事優先になっちゃうんだよね。そりゃ生活もあるから、当然なん
だけどさ」
−−それが稲葉さんとの場合、やりたいことを純粋にやれた、と。そこ
で結果的にひとつ夢がかなったというふうになると思うんだけど、
そのなかでもまた”もっともっと”って新たに膨らんでくるものっ
てあるでしょう?
松本「あるよ、やっぱり。今の状態になることはスタートの時点ですご
く望んでたしね、稲葉もそうだと思うけど。で、やっぱり今の時
点でもまた仕事に関する夢っていうのはあるよね、絶対。それは
活動を続けていくうえで、どんどん変わっていくだろうし。前は
それが1年ぐらいのサイクルだったのが、自分の中では5年後と
か10年後を考えるようになってきてるかな、今は」
−−長いサイクルで先を見はじめた。
松本「うん、そのためには今どうすればいいかってね。オレなんか、こ
の世界に入ってもう10年だけど、そういうのは今振り返ってみな
いとわかんないじゃない?で、そうしたときに、そんな1〜2年
じゃ状況は変わるもんじゃないっていうデータも自分の中にでき
ちゃってるからね。もちろん、最終的な結果なんてわかんないか
ら、そのときこうすればいいと思うことをやるしかないんだけど
ね」
−−今の時点でB'zにとっての”夢”みたいなものはありますか?
松本「まあ漠然としてるけど、たとえば5年後に・・仲良くやってられ
ればいいと思うよ。コンサートもやれて、レコードも出せて、と
いうね。あんまりヒットしないんじゃ困るけど」
稲葉「ハハハ」
松本「今、いろんな人たちがオレたちのコンサートやレコード制作その
他で携わってくれてるじゃない?で、最初から携わってくれてる
人たちってさ、やっぱりすごく大事にしなきゃいけないと思う。
もちろん、これからの人もそうだけど。これからどんどん歴史が
できていくからね。今、自分にとってB'zっていうグループがさ、
すごく大事なものになってきてるって気がするんだよね。スター
トしてからしばらくのあいだは、もう稲葉もオレも自分のことで
手いっぱいだったけど。今は客観的にB'zに対する価値観ってのが
すごくある」
−−その価値自体が大きくなってきて、それを大事にしていきたいとい
うか。
松本「そうだね。グループにもいろんな時期があって、オレが引っぱっ
ていかなきゃいけない時期、稲葉が引っぱっていく時期・・そう
いうのがたぶん交互にくるような気がするんだよね」
−−今はどうなんだろう?
松本「今はやっぱりもう稲葉が引っぱってる時期だと思う。デビューし
てしばらくは、ずっとオレがベーシックを作ってた時期もあった
けどさ。それが3年たって、ちょっと交替して。またそんな時期
がくると思うし・・それがグループのよさじゃない?」
稲葉「やっぱりB'zを好きになればなるほどね、自分でその責任がどん
どん大きくなるっていう気がしますね」
−−それはプレッシャーとはまた違う種類のものなんでしょうね、きっ
と。
稲葉「うーん、でもオレなんかもっと責任持ったほうがいいと思う
(笑)」
松本「無責任だよね(笑)」
−−そう見えるのが稲葉さんの姿勢だ、と。(笑)でも子供のころとは
違って、今はやはり松本さんのように長い目で先を見るというのは
あるんですか?
稲葉「うーん、どうかなぁ・・僕は単純に10年後も歌っていたいなって
いう気持ちはすごくありますけどね。ただ、今はこんなにツアー
が好きだって言ってても、たぶんそのうちに”ちょっと飽きた”
とか”イヤだ”って気持ちになるときもあるかもしれない。でも
10年後に歌ってるってことは、それを乗り越えて歌ってるという
ことだから、そういう状況でコンサートが開けたら・・もううれ
しいですね、僕は」
−−それじゃ、月並みですが'92年の抱負などを・・・。
松本「抱負かぁ・・コンサートが4月まであるからね、まあ月並みだけ
ど無事に終えたいですよね。70本なんて初めてだし、前向きな気
持ちでいたいよね。やっぱり同じメンツでずっとまわってると生
活パターンもできちゃってるから、その中で自分なりの新しい楽
しみを見つけないと・・コンサート本編じゃなく生活自体にね」
−−何なんでしょうね、コンサート本編以外の新しい楽しみって。
稲葉「サウナ?(笑)」
松本「あ、サウナね。オレ、すごく好きなの・・というより、最終的に
は出たあとのビールに賭けてるんだと思うけど。(笑)あれが信
じらんないくらいおいしくて。それにサウナって、何も考えない
でジッとしてられるし・・ちっとも抱負じゃないか(笑)」
稲葉「僕はのどにあまりよくないらしいんでサウナは行かないんですけ
ど。うーん、抱負は・・今回のツアーがまだあと3ヶ月ぶんくら
い残ってますからね。あとは・・今まで作品を作るためのアイデ
アとかをレコーディングとツアーっていう生活パターンのなかで
作ってきたんですけど、それとはまた違った形で別のものを感じ
て、次の作品に現れるような感動をしてみたいですよね。それは
たとえば旅行とか、どっか行くっていうんでもいいし」
松本「旅行はしたいよね」
−−めずらしい。松本さん、旅行嫌いじゃありませんでしたっけ?
松本「オレは旅行っていってもハワイだけど。(笑)やっぱり準備周到
で楽なのがいい。外国行ってまで緊張とかしたくないからね。も
う日本で十分緊張して仕事してますから(笑)」
稲葉「僕は・・行き当たりばったりとまでは言わなくても、なんか貧乏
旅行みたいなほうをちょっとやりたいな。外国に緊張を求めるっ
てことは”オマエ、日本で緊張してないのか”って言われそうで
すけどね(笑)」
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インタビュアー:野中ともそ