庭のかたすみ

はてなダイアリー「庭のかたすみ」移行分です

[B'z][Magazine] TAK vs スティーヴィー・サラス

雑誌は多分 ワッツイン
武道館公演の前日のご対面


SPECIAL TALK SESSION

日本を代表するロック・ギタリスト、B'zの松本孝弘
そして“ジミヘンの再来”と称されるアメリカ人ギタリスト、スティーヴィー。
互いに相手のギタープレイに惚れ込み、親交を深めてきたふたりが久々に東京で再会。
日頃はめったに聞けない優れた音楽家同士による国境を超える熱い音楽論を──。


松本孝弘(B'z)VSスティーヴィー・サラス


 6月16・17日に日本武道館で行われたコンサートは、B'zにとって今年のツアーの折り返し地点だった。
その前日、松本孝弘は、ロサンゼルスから来日していたギター仲間のスティーヴィー・サラスと、
コンサート前の楽しい時間を過ごしていた。
 90年にデビューしたスティーヴィー・サラスは、ワイルドなギター・サウンドとボーカルで、
ロック・シーンに大きな衝撃を与えている。特に、日本ではアメリカ以上に彼のファンが多く、
松本孝弘自身もスティーヴィーの音楽に衝撃を受けたひとりだという。
 7月にリリースされるニュー・アルバム「バック・フロム・ザ・リヴィング」のプロモーションで来日した
ティーヴィーと再会した松本孝弘は、夜がふけるのも忘れて語り合っていた……。

                   *

松本孝弘(以下M):この前ロサンゼルスに行ったときに、スティーヴィーの家に電話したんだけれど、ニューヨークに行っていて、会えなかったね。

スティーヴィー・サラス(以下S):すれ違いだったけれど、またこうやって会えてうれしいよ。

M:会うのは、これでもう4回目くらいになるけれど、前にロスに行ったときには、スティーヴィーのポルシェで家に連れていってもらって、それから歩いて“ベイクド・ポテト”に行ったんだよね。

S:あのときは雨が降っていてさ。稲葉クンも一緒に来たけれど、彼は飲みすぎて眠り込んじゃったね(笑)。ところで、ツアーはどれくらい続いているの?

M:1年間やるんだ。今年の2月に始まって、12月までだけどね。

S:日本だけで?それはスゲエ(笑)!

──すごく仲が良さそうだけれど、おたがいに、どういうところが好きなの?

S:単純にギターのスタイルが似ていると思うんだ。ブルースをベースにして出てきたギター・スタイルだけれど、
そのうえで暴れちゃうワイルドなあたりに、オレたちの接点があるよね。ただ、タックのほうがウマイけれどさ。

M:ベーシックな部分とか、ホントに似ていると思うよ。ただ、日本ではブルースっていうのが、もともとはないからね。
だから、オレはブルースをベースに持っている海外のギタリストに憧れて、その人たちのベースがブルースだったから、
さかのぼってブルースにたどり着いたっていう感じなんだ。オレはスティーヴィーのほうが、ぜんぜんファンキーだと思うよ。

S:いままで、ロッド・スチュワートとか、ブーツィー・コリンズとやってきたけれど、誰とやっても自分自身のスタイルは変わらないんだ。
それが、そのファンキーでブルージーな部分だと思うよ。そういうリズムをやるのが好きだし、もともとリズム・ギターを弾きたかったからね。
タックと会ったときに印象に残ったのは、基本にブルースを持っていながら、ハードロック的なギターも弾きこなしているっていうことでね。
そこがギタリストとしては、すごく珍しい特徴だと思ったんだ。タックのギターはムチャクチャにファンキーだから、おじいちゃんか誰か、先祖に黒人がいたんじゃないの(笑)?

M:それはないけれどね(笑)。そういうファンキーなものは、オレも好きだからね。初めてオレがスティーヴィーのファースト・アルバムを聴いたとき、“オレがやりたいと思っていることをやっているな”って感じたよ。それで、注目していたんだ。

──なんでも、B'zが『Mars』をレコーディングしたときに、スティーヴィーのファースト・アルバムを手掛けたエンジニアに頼んだんだって?

S:初めてタックに会ったときに、オレのアルバムを気に入ってくれて、同じエンジニアを使ったって言っていたよね。それは光栄だと思ったし、そこまで気に入ってくれているっていうことで、オレもタックのことが気になったんだ。
その前にも、ビル・ラズウェルから、すごく人気があって、カラーコードに似ているバンドが日本にいるっていう話を、聞いてはいたんだ。
でも、初めてタックに会ったときには、ビルが話をしていたバンドだっていうことに気がつかなくてさ。でも、2度目に会ったときに、“ビルが言っていたのは、彼らのことか”って気がついてさ。

M:ボクは自然に似ているところもあるし、スティーヴィーの『カラーコード』を聴いて“カッコイイな”って思って影響を受けたっていうところも、正直に言ってあるんだ。
アルバムのサウンド作りにも、そういうところは自然に出てくるからね。

S:オレが音楽を作るときのテーマとしてあるのは、自分が影響を受けた音楽を取り入れることなんだ。でも、ただそれだけにこだわるんじゃなくて、その影響によってどれだけ新しいものを
生み出すことができるかっていうことなんだ。それこそミクスチャーだしね。
B'zのニュー・アルバム『The 7th Blues』を聴いたときも、その中にあきらかにレッド・ツェッペリンエアロスミスの影響が聴こえるんだ。
でも、それと同時に、その中に新しさを感じることができたよ。以前聴いたB'zのアルバムと比べると、はるかに進歩しているって思ったんだ。
考え抜いた大きな音っていうか、どこかの影響だけを出すっていうんじゃなくて、ひとつの大きな固まりとしての音を感じたよ。ビッグ・サウンドだね。

M:ミュージシャンとして活動していくと、自分自身の趣味趣向も変わっていくし、ツアーを重ねていくたびに、バンドとしても進歩していってると思うんだ。
だから、そういうふうに感じてもらえるようでなきゃ困るよね(笑)。

S:最初に会ったときに、バンドマンだとかそうじゃないっていうんじゃなく、人間としての部分で、タックにはすごく魅かれる部分があったんだ。
それを超えたミュージシャンとしての才能の点でも、すごく尊敬できると思っているよ。でも、なによりも、友達だと思っているんだ。

M:それは、本当にうれしいよ。英語なんて、あまり話せないけれど、ロスに行ったときに一緒にライブ・ハウスに行ったりして、すごく友達として接してくれているしね。
それ以上に、ギタリストとしてもスティーヴィーのスタイルが、すごく好きだよ。言葉なんていらないかもしれないよ。雑談をしたり、細かいニュアンスの点で、言葉の壁はあるかもしれないけれど、
音楽をやるぶんにはなんの支障もないしね。

──客観的に聴いていて、ふたりともギター・テクニックをひけらかすのではなく、自分の心にある感情を、ギターで表現する方向に、向いているように感じるけれど?

M:そうだね。自分の感情を、自分自身ではない道具を通して表現するには、技術だけじゃないキャリアが必要だよね。何枚もレコーディングして、何回もツアーをやって、初めて出てくるキャリアがね。

S:そう思うよ。ギターって、それこそ自分の腕の延長っていうか、第三の手っていう感じなんだ。テクニックに関係なく、自分の感情が表現できたなら、そのときに特別な楽器になるんじゃないかな。
あと、考えすぎないっていうことが、ギタリストには大切だよね。計算しすぎずにやっていて、自然に感情が出てくれば最高だものね。
だから、オレはレコーディングでも、なにかを一度テープに録音したら、それは二度とやらないっていう感覚でいるんだ。
そのときの姿こそ、それが本来あるべき姿なんだっていうふうに信じて、次のことに進んでいくんだ。

M:オレは、日本ではけっこう計算してるところがあるように言われるんだけれど、いままで録っているものは、全部アドリブばかりなんだ。だから、オレもそういうものを信じているよ。
そのとき、瞬間瞬間のパワーとかさ。

S:たしかに、タックのギターを客観的に聴いていると、すごく瞬間的なものが多いと思うよ。

──ふたりとも作曲やアレンジを手掛けているけれど?

S:たくさんの人が、タックの音楽を支持していることを考えれば、タックがプロデューサーとかアレンジャーとしても、素晴らしいことをやっていることが証明されていると思うよ。
The 7th Blues』のディスク2のほうを聴いたときに、すごくギャグ的なセンスがあるし、それをうまく使って聴き手を楽しませているっていう部分に、オリジナルなアレンジを感じたし、すごく興味を持ったんだ。
曲の後半で、レッド・ツェッペリンの古い曲を4小節入れて、それでまた自分の曲に戻るっていうような、遊び感覚があるしね。

M:スティーヴィーは自分で歌うけれど、ボクは自分では歌わないよね。そこで、スティーヴィーの歌いまわしから出てくるメロディのくせがあって、ボクは好きなんだ。

S:それは偶然だよ。オレは自分で歌えるなんて思っていないから、そこがユニークに受け取られるんだろうね。

M:いつも、自分で歌はヘタだって言うけれど、そんなことないよ。ボクはスティーヴィーの歌が好きだもの。

──曲を書くときに、自分のベースになっている音楽を下敷きにしているのかな?

S:それは大切なことだよ。最近の音楽はクソつまらないものが多いけれど、お遊び感覚っていうか、なにかがそこでできるっていうのは素晴らしいことだからね。
テレンス・トレント・ダービーのファースト・アルバムって1000万枚売れたんだ。また同じことをやれば、簡単に同じだけアルバムを売ることができるのに、今回のアルバムで彼は新しい音楽を実験していてね。
その結果として、アルバムはそんなには売れなかったけれど、最終的には彼の心も作った音楽も、きっとむくわれると思うんだ。

M:そのとおりだと思う。日本もそれと同じでさ、商業的に売れることを考えていると、自分の本当にやりたいことをできなかったりするしね。

S:それは、いままでのB'zのアルバムで感じていた。でも、今回のアルバムを聴いたら、明らかに違うアプローチの音作りをぶつけてきているよね。そこで、ポップなものを求めていた大衆は、あの作品によって、B'zが離れてしまったと感じたかな?

M:あのアルバムをリリースするときに、ボク自身もそこが疑問になっていたんだ。だけど、テレンスと同じように、自分の中から出てくるものをダイレクトにやらないと、音楽家としてつまらないでしょ。
それで、ボクたちはここ何年かでサウンドがポップではなくなっていったんだ。でも、それを止めるっていうのは、自分たちとしても不本意だから、できなかった。
とにかく、反応がどんな感じかっていうのは、ボクたちのコンサートに来て、確かめてみてほしいな。
ただ、『レディ・ナビゲーション』の英語バージョンを、アコースティックでやると、日本の観客の悲しいところを感じる驚きがあるよ。アンプラグドになると、サウンドのボルテージが下がるでしょ。
そうすると、女のコが多いから、聴くっていうよりも声援タイムみたいになったりね。

S:曲が聴いてもらえないっていうのは悲しいよね。まるでビートルズ状態だね。だけど、ある日銀行に行ってオカネがたくさん入っていて、自分の好きなことをできるようになるって思えば、そこでガマンしたこともむくわれるよね(笑)。

M:ステージ上で、そういうことを思うときも、たまにあるよ(笑)。

──松本クンはアメリカでやってみたい?

M:やっぱりプレイヤーとしては、やってみたいっていう気持ちはある。ただ、記者会見を開いて「アメリカ進出します」って言うようなことはしたくないよね。やるなら、どこかのクラブでやってみたいね。
週末に“ロキシー”や“ウィスキー・ア・ゴー・ゴー”なんかに出ているバンドを観たら、オレたちのほうがよっぽどいいと思う。

S:たとえば、ロッド・スチュワート・バンドのギタリストとしてやるっていう感じで、タックの名前で観客を呼ぶとかっていうんじゃなく、一歩離れてやるんだったら、すごくおもしろい経験ができるだろうと思うんだ。
でも、B'zでそういうことをやったとしたら、アメリカはプレスとかマーケティングが音楽よりも重要かもしれないっていう状況があるんだ。
アメリカでは、いろんなことを言われるだろうし、もし失敗するようなことがあれば終わるかも知れないしさ。責任感みたいなものがつきまとうんだ。
オレは大切な日本を離れて、B'zがアメリカでやることが、そこまで大事なことだとは思わない。
もちろん、タックが“ロキシー”なんかで演奏することはできると思う。世界中からいろんなバンドが来て、興味半分で客も集まったりするけれど、オレからすると“なんで?”って感じだよ。
そこでライブをやって、誰かに「カッコイイ」って言われようが「カッコ悪い」って言われようが、それがなんになると思うんだ。それよりも、日本でタックの置かれている状況ってスゴイから、それでいいんじゃないかな。

M:たしかにね。まぁ、本気でアメリカでやろうと思っていたら、とっくにボクたちはやっていると思うしね。

S:ロキシーなんて有名なだけで、クサイし、汚いしさ。やったあとで、“どうしてオレはこんなところにいるんだろう?”って思っちゃうよ。たとえば、ウェンブリー・アリーナマジソン・スクエア・ガーデン
ロサンゼルス・フォーラム、武道館……世界的に有名な大きな会場、そういうところで考えるのならば、意味があると思うんだけれどね。タックは武道館でやっているんだから、オレはそれでいいと思うよ。

──これから音楽家として、ふたりはどういう存在になりたいと思っている?

M:この前、エアロスミスのコンサートを観て思ったんだけれど、音楽を仕事としてやっている人たちが現役でいられる寿命って、どんどん伸びてきているよね。
昔、日本では30歳を過ぎたらロックはできないって言われていたんだ。でも、今は40歳を超えたいいアーティストが増えているしね。オレにとってB'zって、すごく大切なバンドなんだ。
稲葉とも、よくこういう話をするんだけれど、あと10年たって43歳になっても、武道館のステージに立っていたいね。

S:オレもそういうことを考えるよ。ロッドと一緒にスタジアム・ツアーをしていたのが、つい昨日のことのように思えるんだ。オレとロッドは22歳、離れているんだよね。
オレはいま30歳だけれど、彼と同じ52歳になるまでは、きっとアッという間なんだろうなって思うよ。でも、生まれてから22歳になるまでのことを考えると、すごく長かったような気がするんだ。
だから、ロッドと同じ年齢になるまでに、きっとまだまだいろんなことができるんじゃないかって…。

──これだけ気が合っていると、一緒にやりたくならない?

M:前から、一緒にやろうと言っているんだけれどね。

S:いろんなミュージシャンに参加してもらったオレのアルバム『エレクトリック・パウワウ』なんて、ホントだったら絶好の機会だったのかもしれないけれどね。自然に一緒にやる機会がくるよ。そのときになったら最高のことができると思うしね。

M:まあ、明日は武道館に来て、B'zのコンサートを楽しんでもらいたいな。

S:いきなり、オレがテンガロン・ハットでもかぶって、ギターを持って出ていって、カントリーをかましてみようか(笑)。何分くらいでB'zのファンに、ステージから追い出されるかな(笑)。

                       *

この後、ふたりは夜の六本木のとある店で、セッションを展開。朝の5時頃に別れて、その日の武道館コンサートには、スティーヴィーが姿を見せたという。